「ちょっとしげる、キスマークつけないでよ」
さっきまであんなに嬌声を上げていた癖に、鏡の前に立った彼女は愛想のない声でそう俺に言った。声の方向へ目線を移せば、彼女はせっせと散らばった服と下着を集めていた。
「帰るの?」
「うん」
彼女のあまりの豹変っぷりは毎度驚くがもう慣れた。
俺は裸のままベッドから降り下着を身に着けようとしている彼女に抱き着き、つけかけていたホックを外した。
「やだ、一緒に寝ようよ」
「でも帰らないとあいつが、」
そう言いかける彼女を無視してそのままベッドへ引きずり込み、滑らかな肌に手を這わすと少し艶っぽい声が漏れたのを確認すれば再びくちづけをする。このまま窒息死すればいいと思いながら。
「っは、苦しいよしげる」
「さん、もっかいしよう」
そう言ってまた長いくちづけをする。そのまま首筋を舐め、鎖骨近くに吸い付けば、小さく彼女は息を漏らした。
「駄目だって、キスマークは」
俺は知ってるよ。
さんがキスマークを嫌がる理由。
「ねえ、いつ俺のものになってくれるの?」
「ならないよ、こういうのも今日で終わりだから」
「それ、何回目?」
俺がキスマークを残す理由はただ一つ。
「ねえ、大事なものには名前を書けって、習ったでしょ」
そう言って今度は胸に痕を残せばさんはまだ俺に抗う様子を見せた。
「ねえさん」
耳元で囁き、再び彼女と交わるが、何故か満たされない俺の心。
だから俺はその度に、こう言うんだ。
そっとつぶやいた魔法の言葉
また会ってくれたら、旦那さん殺さないであげるからね
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