人は生まれ、死ぬ。
死ぬ理由は様々だ。病気、事故、自殺。全ては運命であり、自ら命を絶つのも運命の一環なのかもしれない。

そんな人生だからこそ、俺は俺で生きていく。
勝負以外の行動は全て休憩。
食事も、睡眠も、恋愛も。

「あなたはそれでいいのよ」

俺が愛を囁いた訳でもない。
身の回りの世話を金を払ってしてもらっていただけの女。
でも金は受け取らずに、あいつは俺の横にいた。添い寝も、それ以上も。

そういえば、名前も知らなかったな。
でも居るのは当たり前。だからこそ気にならなかった。

「あなたはそれでいいの」

あいつが俺を否定した事なんてなかったな。
だからこそ信頼していた。傍にいても安心できたのかもしれない。



ある日、あいつがふと消えた。
一人で眠る事に慣れていたが、あいつが現れてそれを忘れて、再び一人になる。
失った体温はここまで孤独を感じるのか。

居なくなって初めてあいつの名前を知りたくなった。
勝負に明け暮れた単純な俺に微々たる嫌気もさし始める。
気づけばあいつの顔を思い出しているのに、名前を知らない。
その日々が長く続けば続くほどあいつの声も顔も忘れそうになるのが怖かった。
だが、知らないからこそあいつを傷つけることもないのではないかと、都合のいい考えも生まれる。



雨の日だった。
いつものように代打ちを引き受け、勝負が終わった後に安岡さんが一通の手紙を俺にくれた。
宛先に綺麗な字で赤木しげる様と書いてあり、封を開ければまた綺麗な字でこう書いてあった。

"幸せな時間をありがとう 大好きでした"

聞けば、この手紙を書いた女性はつい先日自殺をしたそうだ。読み終わってこみ上げる焦燥感。ああ、もうあいつには会えないんだ。そうか、会えないのか。

「安岡さん、この手紙の差出人の名前、知ってますか?」
「ん?あぁ、確か・・・、だったかな。知り合いじゃないのか?」
「ええ、よく知ってます」
「そうか、・・・残念だったな」




肩を叩かれ、安岡さんは立ち去る。
俺は数回、と呼び慣れない名前を呼ぶ。
















バイバイもう永遠に会えないね
最後にもう一回会いたかったな 
























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