いらない、とただ一言言ってまだ湯気が立つ料理を背に部屋を出た。
数時間後帰宅、と言っても俺の家ではない。彼女の、の家に戻れば料理はそのままで、彼女自身口をつけずそのまま綺麗に残っていた。ちらりと奥を見れば小さく丸くなってベッドで眠っていた。俺はそれを確認してテーブルにある料理を口にする。涙が出そうなくらい美味しいんだ。温かければどうにかなってしまう位。だから俺も一口それを食べて箸を置いた。

久しぶりに家に戻れば彼女は慌てて玄関まで走って、靴を脱ぐ俺の背中に抱き着いた。少し細くなった腕。きっとろくに食事をしていない。ちゃんと食べなよ、なんて言えない。恥ずかしい。そんな事言える訳ない。だから俺は離して、と言って彼女を振り払い、ベッドに横になった。うとうとと少し 意識が残る中、ふわりといい匂い。ああ、またあいつは俺の為に料理を作っているんだ。何度も何度もいらないと言っても、あいつは作る。俺を信じて家で待つ。別に結婚しようとも付き合おうとも言ってない、ただ一度セックスしただけ。嫌になるよな、バカな女だと意識を飛ばした。

気づけば長く眠っていたようだ。
時計を見ると十一時を指す。あいつは仕事か、と台所へ行けば昨日あいつが作ったであろう料理が静かに並んでいた。野菜も、肉もバランスよくあって、冷めても時間が立っててもとても美味しそうに輝いていた。

一口食べ、また箸を置く。


嫌になるよ、お前の料理を食べると気づくんだよ、己の小ささに。
怖いんだ。俺が俺でなくなってしまうようで。でも縋りたいんだ、お前を失いたくないんだ。



















メランコリーキッチン
明日は素直に美味しかったよと言ってあげられたら なんて
























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