念願叶った筈なのだけど、俺を襲う虚しさは半端ではなかった。

天さんが大好きで、天さんが見えてなくて、口を開けば天さん天さんと言っていた彼女と久しぶりに会ったのは数時間前。

「ひろ?」

呼ばれて振り返れば、そこには変わらない美しい最愛の女性がいた。
嘘だろう、と二三度目を擦ったが、彼女は綺麗に笑って俺に近づき、やっぱりひろだ、久しぶりと笑った。

お互い偶然にも時間があったので、近くの喫茶店に入り珈琲を二つ頼めば、彼女は開口一番こう言った。

「ひろ、すごく若くなったね」
「そ、そうかな」

少し恥ずかしくなって頭を掻く。ああ、そうか、最後に会ったのは六年前。お互いもういい年だ。彼女の変わらなさには驚いたが、それは彼女も同じだったようで。

「うん、びっくりした。声かけるとき不安だったもん」
「はは・・・」

空笑に近い笑いをすれば、彼女、は長い髪を耳にかけた。その時、きらりと光る左手薬指の指輪に思わず目が行く。

「あれ・・・結婚、した?」
「あ・・・うん、そうなんだ、もう三年になるよ」

三年前と言えば、赤木さんが亡くなった年。

「そ、そっか・・・、うん、子供はいるの?」
「ううん、まだなの」

なんだろう、この失恋に近い気分は。ああいや、失恋かと思っていると視線が泳ぐ。なんとか冷静になって、とりあえず最近何してるの、だとか、他愛もない会話をする。・・・もちろん、こちらから天さんの話はしないし、彼女もそれには触れなかった。

懐かしい話も交えたら、時間があっという間に過ぎて外が暗くなった。

「あぁごめん、そろそろ出た方がいいよね?」
「あ、うん、ありがとう」
「じゃあ、送ってく」

喫茶店の会計を済ませ、彼女の自宅へ送ることにした。
歩くスピードも変わらないから、なんだか不思議な気分だ。今だけ、あの頃に戻ったような感覚に襲われる。

「あ、家の真ん前じゃまずいよね」

途中、ふと俺がそうつぶやくと、は立ち止った。どうしたの?と問いかけると、急に彼女は俺のスーツの裾を掴む。

「ひろ・・・お願いが、あるの」








因果応報、輪廻、運命 そんな単語がぐるぐる回っている。
何故なら、俺はまたあの日と同じホテルで、何故か、また彼女を抱いているのだ。
理由は分からない、でも彼女には理由があるんだろうなあと思いながらキスをすると、甘い味がした。

「ひろ・・・ごめんなさい、ごめんなさい」

彼女はただひたすら謝って俺に抱かれている。
昔と同じように彼女の好きな部分を抓んで口で転がす。嬌声が響き、俺の脳内もドロドロにとろけかけた。浮気とか、不倫とか、もうどうでもいい。だって俺は、ずっと彼女が好きだから。結婚したって言われて悲しかったが、いやそれでもずっと好きだったって、正直な話言いたかったんだ。

・・・瞬間、ぴりりとわかった。

「そうか、・・・」




君もずっと、天さんが忘れられないんだね。
結婚して、旦那さんに抱かれても、天さんが好きだから辛かったんだね。
忘れるために結婚したのに、どうしてこんな辛いんだと泣いていたんだろう。でも俺なら、あの頃を共に過ごしていた俺なら、なんとかその寂しさを紛らわす事が出来る。



「・・・俺もね、あの日以来、君以外の女性は抱けないんだよ」



情けないな、涙が出る。



「ねえ、、俺と結婚しよう」
「ひろ、ひろ」
「子供作ろうよ」
「ひろ、ひろ」
「いいんだよ、"天さん"って呼んでも」






「天さん・・・すき」
「うん、・・・俺も好きだよ、






ああ、かなしい。





















ねえ教えて、悲しい日の越え方を
お互い、ずっと救われないね。

























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