ヤクザに囲まれながらひょうひょうと麻雀を打つはとても美しかった。
こんな俺が声をかけてもいいのかと怖気づいたが、声をかけたらかけたで麻雀を打っていた時のイメージとはまるで別人な、年相応なリアクションが返ってきたときには、多分もう恋に落ちていた気がする。それから必死だったさ、必死で麻雀で食らいついて、なんとか腕を認めて貰えて、名前を憶えてもらって、何度かお茶して、告白した時に頷いてくれた瞬間、すぐに抱きしめると彼女は驚いたが腕を回して体を預けてくれた。

俺がこんなにも純情な恋をしていると他人に知れたら笑われるだろう。
でも俺は幸せだった。ずっとと一緒にいたいと心から思ったのも嘘じゃない。
彼女が普通の仕事についてと言えば組を抜けたと思う。でも彼女はそのままでいいと言う。俺は嬉しかった。を俺のものにできて、を愛することができて、本当に幸せで、心底溺れていた。

が井川さんと出会ったのはいつだったか。
当然井川さんに勝てなかった彼女は、ひどく落ち込んでいた。俺も近づけないくらいに落ち込んでいた。と、同時に何か火がついたような、そんな様子もうかがえた。そのあと、井川さんに「あの方、すごい綺麗でかわいいひとですね」と言われたが、井川さんも男だなあとしれっとそうですねーと言った。

違ったんだ。
あれから何故かと疎遠になった。嫌な予感がする。胸騒ぎがする。近くにあったものが遠くに、食べているものの味がしない、そんな感じ。ああそう言えば俺は井川さんに伝えていない、は俺の彼女なんだと、いや男の俺から言うのも変な話だ。そんな話をしてどうする。井川さんを疑い過ぎだ、と。

久しぶりに会った彼女は少し違う気がした。
喫茶店でお茶をする。久しぶりの休みで、久しぶりのデート。でも、目が合わない。話題も俺ばかりがふって、彼女からは笑顔すら零れない。不穏な空気の中、俺の家へ彼女を招く。もちろん俺は直ぐに彼女をベッドへ押し倒すが、は俺を直視しない。

「なにか、隠してる?」
「・・・」
「最近連絡もくれない。久しぶりに会ったのに、目も合わせてくれない」

ブラウスに手をかければ、小さな手が俺の右手を掴んだ。未だ彼女は俺を見てはくれない。

「嫌いに・・・なったのかな」
「ちがうの」

初めて目が合ったが、はぼろぼろと涙を流している。

「ごめんなさい、忍くん、ごめんなさい、わたし、もう戻れないの」

その言葉で、すべてを察した俺は急いでブラウスのボタンを外す。
俺だけの、俺だけのの身体だったのに。
ひとつ、ふたつ、胸に残るマーキング。











「井川さんに、好きって、言われて、ごめんなさい、忍くん、ごめんなさい」










瓦礫が崩れる音が、した。






















愛を知ると永遠を願う
愛を失うと永遠を笑う

























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