「優等生だなあ、ってよ」
夕暮れ、教室。
日直と言う役割を守ったことのない俺は生まれて初めて日直と言う仕事をしている、が。仕事という仕事は今目線の先にいる女がやっている。黒板を消し、それをパンパンと丁寧に叩いては
咽て、綺麗な字で日誌を書いていた。今丁度 兵藤和也 と日誌に記された。そして俺の発言にうるさいなあと女はぼやく。兵藤和也と言う字を眺めて、ああ、こいつらしい綺麗な字だなあなんて内心思っていると、眉間にしわを寄せてこう言うのだ。
「日直なんてするイメージないよね兵頭って。って言うか仕事という仕事してないか」
「ああ、日直なんてやったことねえ。あとお前だけだよ、俺にそんな物言いするのは」
クク、と笑っていると、今度はそう?と眉を下げた。ころころ変わる表情がまた面白い。
「みんな俺を怖がるんだ」
「怖がる?」
「あぁ」
「そうなんだ、兵頭は意外と優しいと思うけど」
あいつの目線が日誌で良かった。
優しいなんて、お世辞でも中々言われない言葉だったから、思わず目を見開いてしまったのだ。・・・いや、そういえば俺はサングラスをかけていたから分かる訳ないと思ったのは数秒後。
「優しい?」
「うん、あと寂しがりや」
ぐさりと刺さるその言葉は、傷ついたというものではない。
なんだよ、なんでそんな事言うんだよ。なんでそんな分かったような事言うんだよ。
「お前に何が分かるんだよ」
確実に数分前とは違う声のトーンでそう言えば、は手を止めた。
「だってそうじゃない、お金で見せかけの友情を買っているようなもの」
目線すらこちらに向けないこのクソアマに無性に腹が立つ。だが、なんだろうか、この腹が立つ理由。図星をつかれてプライドを守るための怒り。くだらねえな。
俺は席を立ちの手をぐっと掴み、黒板を背に追い込む。
ガタン、という音と共にチョークが数本落ちて粉々に砕けたのを横目に、は何よ、と言って俺を睨み付ける。
「じゃあ、俺が寂しいと言えばお前はどうしてくれんだ」
「・・・は?」
「キスでもしてくれんの?はたまたやらせてくれんの?」
「ちょっと、何言って」
小さな小さな顎を片手で上げると、いつも気丈なの瞳が揺れた。
怖がってんのか、まあ、しょうがねえよな。
・・・笑える なんで俺ってこんなヘタクソなんだろうな。
一度キスをすれば、は一筋涙を零した。
「なあ、どうなんだよ」
「ひょう、どうっ、わたしは、」
僕が恋したのは、
誰かに恋した君だった
今更好きな男の名前呼んだって もう遅いんだよクソが
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