野良犬と飼い猫、罵声されるとしたらこんな感じだ。
何故出会って出会えてしまったんだろうとも思う。そもそも世界が違う。財閥令嬢とフリーターでもないニートな俺。
相手にされるはずないのに、あいつは毎日にこにこして俺の後ろをついて歩く。あいつは不思議な力を持っているようにも見えた。
生まれて初めてのパチンコを打たせたら謎の二十連荘。歓喜を超えて茫然な俺と、意味も分からずとりあえずパチンコの指示通り右打ちをしている彼女を見て思わず可笑しくて笑ってしまった。
ゲームセンター、ボーリング、カラオケ。
ひたすらブルーハーツを歌う俺に合わせて楽しそうにタンバリンを叩いたり、かわいいと言ったぬいぐるみを取ってやれば大切そうに抱きしめていたり。折れそうな腕に合わせて八ポンドのボーリング玉を選べば、思いのほか上手に投げてスコアが百を超えたり。
「カイジくんといると楽しいの」
「・・・そうか?」
「うん、カイジくんは知らない事をたくさん教えてくれる」
「おーそうか。じゃ、次はどこ行きてえんだ?」
賃貸アパートの鍵を開けて、コンビニで買ったビールとつまみ、彼女のミルクティーとクッキーを広げてそう言えば、少し俯いて彼女は言う。
「ううん、いいの・・・たぶん、もうタイムリミットだから」
「?、どういう」
瞬間、バタバタと乱暴な足音が聞こえ、玄関のドアが強引に開けられた。真っ黒な服を着た男が数人土足で押しかけ、驚いていれば目の前につきつけられた銃口。
おいおい、嘘だろう。そう思っていればすぐに彼女は男に抱きかかえられて俺から遠ざかる。せっかく買ったミルクティーたちが机から転がり、男たちに踏みつぶされ粉々になったのを見て漸くなにすんだ、と声が出たが時既に遅し。気づけば布に染み込んだ薬をかがされ遠のく意識。
「、・・・」
ぼやける視界に小さく写る彼女の名前を呼べば、彼女は涙を流しながらごめんなさい、カイジくん、ごめんなさい。と謝っていた。なんで謝るんだ。なんで泣いてんだ。そしてあいつが俺に近づいて、頬に手を添えた。そのまま優しくキスをし、ありがとう、大好きでした。なんて言う。手を伸ばしたが彼女に触れることすらなく俺は意識を失った。
○○財閥氏の令嬢が突然失踪
余命数か月と申告された彼女のとった行動とは
あいつが飲みたがってたミルクティー。
あいつが食べたがってたなんとかおばさんが焼いたクッキー。
あいつが喜んで抱きしめていたぬいぐるみはなくなっていた。
もう会えねえのか。
ってか、あいつ死ぬのか。
意味わかんねえな、急に現れて急にどっか行って。
なんなんだよ。
あいつの家の特集が組まれた週刊誌をくしゃくしゃにして公園のゴミ箱に捨て、空を仰ぐ。
だからって、
なぜ一番恐れていた結末なのか
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