学年末テストと言うのは、その年の集大成と言っても過言ではない。
ぼんやりと張り出された順位を眺めている俺に対して聞こえる称賛の声。やっぱり宇海は凄い、むしろもう当たり前だよね、など。でも俺はそんな声に反応などしない。ただ俺が見つめていたのは、二位 と言う名前だった。

その名の彼女は夕暮れになっても図書室で静かに勉強する真面目な子だ。
でもどうやら俺の事は嫌いらしく、俺が声をかけても不機嫌そうに答える。それがなんだかおかしくて、気づけば俺は彼女の気持ちなど関係なく声をかけていた。

「ねえ
「・・・なに」
「学年末テスト、流石だね、ブレない二位」
「・・・嫌味?」
「あ、いや、全然そんなつもりはないんだけど」

ぎろりと睨む彼女は俺ら以外誰もいない図書室の一番奥で相も変わらず勉強している。
空いている窓からふわりと金木犀の香りと少し涼しい風に秋らしさを感じ、なんだか気分がいい。でも、彼女はとても気分が悪いようで。

「いつもいつもなんなの・・・私に声かけて・・・からかうなら本当やめてよ」
「いや、俺はただと話がしたくて」
「私はしたくないの!」

ばちんと勢いよく机が叩かれて、プリントがひらひらと舞った。
彼女の分厚い眼鏡が夕日に反射して、俺の目を眩ませる。テーブル越しに座っていたが、そのまま彼女の横に行き散らばったプリントを拾い上げた。

「俺が毎回一位だから?」
「・・・そうよ・・・わたしは、どうせどんなに頑張っても、宇海には勝てない!勉強だけが取り柄だった!そんな私から、あんたは全て奪ったの」

わかるよ、その気持ち、わかるよ。
だって知ってたもん。ずっと俺に食らいついて二位から引き下がらない君の事。

そして、ぼろぼろと涙を流しているこの顔も、分厚いレンズを外せばとても美しいって事も。

「ねえ、なんで俺がずっと一位を取ってるかわかる?」
「・・・わ、分かる訳ないじゃない」
「それはね」


プリントを机に置いて、彼女の眼鏡をするりと取る。
驚いた彼女の瞳が大きく見開いて、涙が零れたのでそれを指で掬えば、彼女は驚きながら固まっている。




「俺が一位であり続ければ、はずっと俺の事考えてくれるでしょ」

宇海零を超えたい
宇海零に勝ちたい

「四六時中俺を思ってくれる」

そう言えば、彼女はあきれたようにぼろぼろ涙を流す。ばかじゃないの、なんなの、と言葉を吐きながら。
その姿が可愛らしい。だから俺は、頭を撫でながらこう言うんだ。














泣かないで泣かないで、
でもね、俺のためには泣いて欲しいんだ。ごめんね。

























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