「ちょ、なんで来るの」
「いや、だって学校休むから」

夕方、学校が終わってが好きなプッチンするプリンを買って彼女の家に行けば随分具合の悪そうな顔でそう言うもんだから、とりあえずプリンを机に置いてお大事にと言って背を向ければ小さな声でありがとう、と返ってきたからよしとする。



「なにこれ」
「プリンのお礼」

ダン、と置かれた野菜ジュースはもうすっかりぬるくなっている。

「だからって野菜ジュースって・・・」
「インテリな宇海零様には野菜ジュースがお似合いよ!じゃあね!」

そう言って彼女は高速で去っていった。意味不明。ああ、そっか次日本史で移動教室か。



「あれ?今帰り?」

夕暮れ下駄箱でばったり出会ったのでそう声をかけると彼女はくるりと振り返りシャンプーの香りが漂う。嫌いじゃないなあなんて片隅で考える。

「うん、まあね」
「ん?なんかあった?」

少し俯いてそう答えたので、そう尋ねると彼女は首を横に振りなんでもない、と言った。異常気象に繋がりそうなくらい真っ赤な夕日の中とりあえず帰った。








「プリン・・・」

袋からちらりと顔を出しているそれは私が大好きなもの。
きゅっと目を閉じて零の顔を思い出したら、胸がドキドキしたから考えるのをやめた。



「ねえ、さんって宇海くんと付き合ってるの?」

授業が終わって、教室を出ると数人の女子に手招きされて何だろうと思い近づけば開口一番そう言われる。幼稚園から一緒なだけだよ、と言えば、数人の中の一人が安堵した。 ああ、そうだよね、あいつかっこいいし頭いいしモテるよね。なんて思うと今度は胸がちくんと痛んだ。



「零ってモテるよね」

怖いくらい真っ赤な夕日の中で一緒に帰路を辿る零に言えば、はい?ととぼけた顔で返事が返ってきたから、今まで真剣に悩んでた私の気持ちどうしてくれるんだと思ったけど冷静になる。

「今日、歴史終わって隣のクラスのあの可愛い子のグループに言われた」
「え?何て」
「零と付き合ってるの?って」
「なんて答えたの」

珍しく零が真剣な顔と声で立ち止まった。びっくりして振り返ると、夕日に照らされてキラキラ輝く零の髪が綺麗で思わず見とれてしまう。

「いや・・・幼稚園から一緒なだけだよ、って」
「・・・ふーん」

そう言ってちょっと不満そうに歩き出すから困るんだよ。零の事ずっと好きだけど、零は絶対違うんだろうなあって思ってた。だって、ガサツで頭もよくない私なんて好きになってくれる訳ない、なんてちゃおでもなかよしでもりぼんでもよくありそうな事を考えていると零との距離が少し離れてしまった。



俺がどんなに近づいてもある程度の距離を保っているように感じたのは、中学に入ってからだ。昔からずっと好きなのに、彼女はきっと幼馴染という関係を壊さないんだろうなあと思って常に何もできなかった。だから、隣のクラスの誰だか知らないけどその女子に若干感謝したんだ。が俺をどう思っているか聞けるチャンスを与えてくれてありがとう、って。

振り返れば彼女は立ち止っていた。ああちょっと見失ってたと我に返りどうしたの?と聞けば、は俯いて動かない。

「ちょっと、どうしたの」
「零は、もし男子に私と付き合ってるの?って聞かれたらどうする・・・?」

思わぬ言葉に驚く。

「どうするの・・・?」

夕日を浴びた瞳はキラキラしていたけど、彼女の目は本気だった。

「・・・幼稚園の頃から、・・・片思い、してる」

自分がうっかりそう言ってしまった事に気づいたのは、彼女の目がぐっと大きくなって驚いていた時。時既に遅し。ああ、俺はやってしまった。タブーを犯した。なんでこんなよくわからない雰囲気で中途半端な告白をしているんだ、とこの場から逃げ出したくなった、のに。

「それ本当に言ってるの?」

彼女がぼろぼろ泣き出すではないか。

「え、え、ご、ごめん」
「なんで謝るの!嘘なの!?本当なの!?」

彼女を泣かせてしまった事など一度も無かったからこそ俺は動揺して謝ってしまった。そのおかげで先ほどの告白を嘘と言っているようになってしまったが、彼女は冷静だった。再び聞いてくれたから、俺はまっすぐ彼女を見て言った。


「本当・・・だよ、ずっと好き、だよ」


そう言えば



「バカ!!!なんなの!!!私だって!!!ずっと好きだよ!!!零のこと!!!」



気づかなかった。
そして嬉しかった。こんなにも彼女は顔を赤くして、涙を流しながら俺に気持ちを伝えてくれたんだから。

ずっとずっと遠いなあ、なんて思ってたけど、お互いずっと近くにいたんだね。














近距離恋愛
あまりに嬉しくて、抱きしめてキスしてもいい?ってつい真顔で聞いてしまったよ俺は。

























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