私の事が誰かわからなくても、私が一体なぜここにいるかとかそんな理由も正直必要ないんだなって思った。
私と彼が一緒に過ごした期間の思い出も、無くなるなんて悲しい!なんて嘆いていたけど、そんなのもどうでもいい。そう、彼が生きていればいいんだ。でも、もうそれは叶わない。
「なぁ、なんで俺はお前の頭をこうして撫でてるんだろうな」
「ね、どうしてだろう」
「でもな、なんかずっとこうしてたような気がするんだな、不思議と」
神域が椅子に座って、私が床に座って彼の膝に頭を擦り寄せると、彼は猫を撫でるように私の頭を撫でた。
すっかり秋になった外から涼しい風が、神域の前髪を揺らす。私はそれを下からぼーっと眺めていた。
「長いようで短くて、でも本当に幸せでした」
「そうか、それは何よりだ」
神域はにこ、とほほ笑み、撫でていた手を私の頬に添えた。
「ごめんな」
彼のその一言を聞いた瞬間、目からぼろぼろと涙が流れた。
驚いた彼は少し困ったように眉を下げて、そんな顔しないでくれと涙を掬ってくれた。
「話したい事がたくさんあるのに、中々言葉にならないの」
「そうか、じゃあもう寝るか?」
「いや、絶対にいや」
そのまま神域の太腿にぐっと顔を埋める。
たばこの匂いと彼の匂いが余計に涙を誘った。
「そんなに泣かないでくれよ」
「だって、」
「あぁ、そうだ」
神域はぽんぽん、と頭を二度優しく撫でて、
「ありがとう、。本当に楽しかった」
来ないはずの明日のために
その一言があまりに優しすぎて 温かくて 何も言えなかった
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