「いいんだよ、ひろはひろで、神域みたいにならなくったって」

彼女は多分、本当に何も考えずに発したんだと思う。でも、その言葉で本当に救われただなんて、彼女は知りもしない。同時にその言葉を切欠に彼女を愛してしまった事も、知りもしないだろう。

赤木しげるの唯一の家族で、恋人で、彼女で、時に母のような彼女は、俺と同い年。綺麗な女性だとは思うが、芸能人のような美しさではない。平凡の中では一際輝く程度。だからこそ不思議なのだ。 赤木しげるのようなカリスマ性を持ったわけでもない、普通の女性。でも、その中にある彼女のすばらしさを、赤木さんも買っていたんだと思う。そして、赤木さん自身も心から愛していたんだと思う。

でも、赤木さんは彼女を最期まで連れていかなかった。

"ひろ、をよろしくな"

赤木さんの最期の日、ぽつんと俺にそう言ったんだ。今思えば、赤木さんは俺の気持ちを知っていたのかもしれない。・・・どこまでも食えない人だ。

、おはよう」

名前を呼べば、目をゆっくり開き、俺をぼうっと見る彼女はやせ細って、昔の面影は半分ほど消えていた。

「あ、おはよう・・・ごめんなさい、わたし寝坊しちゃった」
「いいんだ、今日は土曜日だし。朝ごはん作ったんだけど食べる?」

そう俺が言うと彼女はありがとう、と少しほほ笑んだ。
顔を洗った彼女が座り、俺が作った朝ごはんに手を合わせ、いただきますと一言。

「調子はどう?」
「うん、大丈夫、いつもありがとう」

赤木さんが亡くなって数年、は日に日に弱っている。
死を漸く受け入れ、何とか生きている状態だ。



それでも愛する彼女がいつ消えてしまうか不安だから、

「大好きだよ」

毎日のように愛を叫ぶ。

「ありがとう、ひろ。ごはんおいしいね」

でも、彼女の瞳にやっぱり俺は映ってなどないんだ。



















恋した君はもう死体
あぁ、無力 俺もあの人になれたらどんなに幸せだろうか

























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