路地裏のホテル街にたまにいる女子高生が身体を売りお金を稼いでいる姿を何度か見たことがあった。
あれは大雨の日だったかな、代打ちの予定が急遽キャンセルになり、ならばということで適度な飲み屋を探している途中、傘もささずずぶ濡れの少女がいた。

「おい、風邪引くぞ」

傘を傾けると彼女は顔をあげる。
まるでずぶ濡れの子猫のように潤んだ瞳で俺を見上げる。

「・・・んー、趣味じゃあないんだけどな」

とりあえず俺は少女の腕を引いてホテルに入る。
ホテルに入るなり少女は慣れた手つきで制服を脱ぎ捨て俺に近づいてくるもんだから、ああ常習犯なんだなと片隅で思いながら風呂場にあったタオルを投げた。

「とりあえず拭け、もしくは風呂に入れ、体冷えてるだろ」

無言で俺の顔を見ると、少女は不思議そうな顔をして一瞬狼狽えたが、そのまま風呂場へ消えていった。
数十分すると、ずいぶん温まった表情で出てきた彼女を見て、なんだか本当に猫みたいだな、と思い喉を鳴らす。しかし、彼女の身体に傷跡が多くあり、少しだけそれが気になった。

「お前、名前は?」
「・・・
「そうかそうか、何か食うか?」

出前でもとるかとホテルにあったメニュー表を眺めていると、俺が座るソファの横にちょこんと座る。その姿がどうも餌付けをされた猫のようで、また可愛らしく思えた。こう、援助交際をしている女は偏見だが 強情な女ばかりだと思っていた。しかしこのという娘は違うようだ。かなり俺に遠慮しているように見える。

「じゃあ、俺が食いたいもの頼むがお前もそれでいいか?」

こくんと一度頷いた彼女の頭をよしよしと撫でると、少し照れたように俯いた。
一時間程して出前が届き、とりあえずそれを胃に入れる。少女は久方ぶりの食事らしく、とても美味しそうにほおばっていた。

食事を終え、彼女も気を利かせてかさあと言わんばかりにベッドに横になる俺に覆いかぶさってきた。いやいや、俺はそんなつもりないぞと伝えると、目を丸くさせて不思議そうに首を傾げた。

「まあ、今日は寝てくれや。ああ、こんなおっさんとでは嫌か?」

そう言えば、彼女はふるふると首を横に振った。そしてそのままするりと俺の隣に潜り込むと、本当に猫のように丸くなって眠っていた。警戒心が無さすぎるなあと思いながら、俺も彼女の温もりを感じながら眠りについた。

朝方先に目が覚めたのでお札を数枚置いてホテルを出ると、その後すぐに彼女が俺を追いかけ、お札をぐい、と突き返してくる。

「いや、それはお前に」
「・・・いらない、」
「受け取っておけって」

そう言い再びお札を彼女に渡すと、思わぬ言葉が返ってきたのだ。

「また、一緒に・・・寝て、ください」

彼女の言葉は、「いい金づるが見つかった」と言うより、本当に「また添い寝してほしい」というようにも聞こえた。俺の勘違いかもしれないが、確かにその時はそう聞こえたもんだから、俺はまた偶然会ったらなと一言言い、という少女と別れた。

しかし、代打ちの都合で彼女と出会ったホテル付近にはよく足を運んだため、彼女は俺を見つけると今度は犬の様に走って俺の近くで止まり、じっと俺を見つめるのだ。組の連中が目を丸くしている中、俺はああすまん今日はこれでと言い彼女の手を引いた。お前が思っている程 俺はいいおっさんじゃないぞ、あれはたまたまだったのかもしれないぞ、今度はお前を殺しちゃうかもしれねえんだぞと諭したって彼女はあなたならしない、と何を根拠に言っているのか分からない言葉を吐くんだ。

「お名前、聞いてもいいですか」
「ああ、赤木だ、赤木しげる」
「しげるさん」
「ったくしょうがねえなあ、何か食うか」

そう俺が言えば、彼女は

「しげるさんが食べたいものがいいです」

といい、にこりとほほ笑んだその顔がどうにも可愛らしいから困ったもんだ。






















火遊びは危険ですよお嬢さん
でもどうしてか、彼女と寝るのは心地がよい

























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