「ねえ、ずっと思っていたんですけど」

俺が泊まっているホテルの一室。
温かいタオルで懸命に俺の身体を拭く彼女は、古傷を撫でながらそう言った。

「ん?」
「このすごい大きな傷、なあに?」
「あー・・・」

左手で傷に触れればの手に触れる。

「なんだったかな」
「けっこう深いですよね、絶対大けがですよね」
「だなあ、ざっくりいってるもんな」

鏡越しに見て暢気に笑えば彼女は笑い事じゃないよ、と言い止めていたタオルを再び動かした。

「赤木さんの若い時、見てみたい。赤木さん昔の話なんてしてくれないから。ああ、タイムマシンに乗りたい」
「俺の若ぇ時か。あの頃の俺が今のに会ってたらすぐ襲っちまいそうだ」
「ふふ、嘘ばっかり」

赤木さんは優しいもの、と彼女は穏やかに笑ったのを見て、心から癒された。

「少なからず今より手を出すスピードは速いだろうよ」
「それは嬉しいな」
「クク、どういう意味かねえ」
「素直に喜んでるんですよ」
「ああ、そうかい」

今度は乾いたタオルで丁寧に拭くをぼうっと眺めていた。
それからは他愛もない会話。雨が降りそうだとか、そんな話だ。
昨日の事も忘れ、左目の視力も徐々に落ちていく俺は俺でなくなっていく様が惨めだった。そんな俺が死を決意してから、彼女は毎日俺を訪ねてくれる。

「なあ、

拭き終わったタオルを片付けている彼女を呼び止める。

「なんで毎日俺に会いにくるんだ?」
「それは・・・簡単な理由ですよ」

タオルを袋に入れ、自分のカバンに入れる。それから俺の目の前に座って、ぎゅ、と俺を抱きしめた。

「赤木さんがだいすきだからです」
「お前がチビの頃から面倒みてたんだ、俺はお前にとって親父みてえなもんだろ」
「いや・・・好きなんです、一人の男性として」

ふわりと彼女が離れると、彼女の髪の香がした。

「・・・俺はお前と過ごした記憶すらもうねえんだ」
「それでも、私はいいんです。でも、これからを決めるのは赤木さんだから」

そう言い立ち上がった彼女はカバンから手作りの煮物などの惣菜とご飯を出し、電子レンジで温めてそれを俺に差し出す。いただきますと言い食べれば懐かしい味。ああ、記憶はなくても懐かしさは忘れてないんだな。

食べ終わったタッパーを片付け、荷物をまとめた彼女はそれじゃあ、と一言言いホテルのドアノブに手をかける。傍まで行き、じゃあ、と手を振るがその手はひらひらと左右に揺れず彼女の手首を掴んでいた。

「赤木さん・・・?」
「ああ・・・いや、何でもねえんだがよ」

彼女と居ると離れたくなくなるんだ。
孤児だったこいつを見つけて拾って育てて、早いもので気づけばこんないい女になっていた。こいつも俺を愛して、俺もこいつを愛していた。親子同前の年齢差だが、当然垣根を超えた関係だ。でも、こいつも頭がいいから俺がこんな姿になってからは、自然と離れていった。一人で仕事をして、生活をしている。でも、俺が死を決意してから、不思議とそれを察知したのかこうして毎日来るようになったんだ。

、お前は最高の女で最高の娘だよ」
「私のこと、娘だなんて思った事ない癖に」
「ああ、ねえな」

掴んだ手首を引き寄せて抱きしめる。

ああ、駄目だ、駄目だ、駄目なんだよ、この匂い、この甘さが。
























早く行っちまえ
お前が傍に居れば、少しでも生きたいと思ってしまうんだ

























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