「おはよう、」
真っ白なベッド、真っ白なカーテン、広い個室に一人眠る女性。
持ってきた花を花瓶に生け、丸椅子に腰かけて彼女の手を握る。二度握って指を絡め、再び強く握るが、彼女が目覚めることはない。
「、昨日はね」
昨日の出来事を話しても、相槌も、笑顔も彼女は見せてくれないなんて、分かりきっている。でも、いつか、いつか目が開いて、その小さく可愛らしい唇から、零って呼んでくれるんだ。
「ね、・・・」
再び手を握る。強く、強く握る。普通なら痛い、やめてと言うくらい強く。強く。強く。
「ねえ、痛いよね?痛いよね?」
何故君は俺を庇って動けぬ体になったんだ。
俺でよかったんだ。君にはずっと笑っていて欲しかった。君をずっと守っていくって決めていた。出会った時から、ずっと君が大好きだったんだよ。
「、ずっと言えなかったんだ、君が好きだって」
零、零、と俺を呼び、俺を信じて、俺をいつも助けてくれた。
「ねえ、返事を聞かせて」
肩を揺すっても、長いまつ毛がゆらゆらと揺れるだけ。
「、」
何度も呼んでも、君は眠り続けたまま。
こんなにも愛していて、こんなにも愛しくて、こんなにも思っているのに君は目覚めない。
狂ってしまいそうだ。
君はここにいるのに、君はここにいない。
だから俺はポケットにある果物ナイフを取り出し、の腕に添わせる。
「、ほら、痛いでしょ」
つう、と血が流れる。
それと同時に、俺の目からも涙が流れた。
「ごめん・・・ごめん・・・」
そして、同じように俺の左腕にもナイフを宛がい、ぐっと力を込める。
どれだけ痛い事をして血が流れても、彼女が目覚めることはない。なのに繰り返してしまうのは何故なのか。罪悪感を殺すために同じことをし、彼女と同じ傷口を眺めると気持ちが晴れた気がした。
ああ、。
大好きだよ。
愛で君を救えないなら
痛みを持ってそれをなす 今の俺にはそれしかできない
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